灘の蔵元巡り 第7回:沢の鶴株式会社
取締役経営管理室長 長江晴夫氏
●農村と蔵元の連携のかたちが必要
左:神戸組合長     右:長江取締役
神戸:戦争から復興の時代は全てが大変だったと思います。都市圏で大きな酒蔵が残ったのは偶然としか言いようがないでしょうね。
ところで、沢の鶴さんにはずっと山田錦を使っていただいておりますが、ご存知のとおり山田錦は普通のご飯用の米より手間のかかる品種です。
まず生育後半には人間が埋もれてしまうほど背が高くなり、ちょっと強い風が吹くと倒れてしまいます。
収穫前に倒れるとすぐにモミから芽が出てしまい品質が悪くなります。
それに適地と言われるところは、いわゆる棚田状になっているところが多く、大型機械での作業が困難な地帯です。
もともと六甲山系の北側で一日の寒暖の差が大きいことと、地質が山田錦に向いていたこと、そしてなによりも灘のお蔵元との連携がしやすかったので、山田錦のメッカとしてやってきましたが、近年生産者の高齢化が懸念されてきております。

長江:蔵元も同じことなんですね。従来お酒の仕込みは杜氏(とうじ)さんを筆頭にした技術者集団である蔵人(くらびと)が農閑期に酒を仕込んでいたわけです。ところが近年、この人たちがドンドン高齢化して行くばかりで、若い後継者がなかなか出てこないのです。それで蔵元は社員の技術者を増やして対応するかたちを取っております。      こうした原因は農村構造がそのまま現れているのだと思います。つまり昔は半年農業をやって、後の半年は蔵人をやって食べて行けたのですが、今やこれが難しいわけです。言ってしまえば日本の農業収入というものが低すぎるんですね。こんなことを言って山田錦の値段が高くなってしまうとこちらも困るんですけれど。


神戸:実際、他の業種と較べると農業の収入は少ないですね。
兼業農家の友人が言うんです。「田んぼを持っているばっかりに、貰ったボーナスを注ぎ込んで農業機械を買って、休日返上で働いて、収入は注ぎ込んだボーナスにも満たない」と。
特に山田錦の場合は手間がかかる上に収量が少ない。山田錦は高いと言う方があるんですが、かかる手間を考えると決して高くないはずです。それでもその値段では買えないと言われてしまうと、産地としては大変困ったことになります。

長江:ものには適正価格と言うものがあって、生産農家がやって行けないような低価格にすべきではないですね。そこで兵庫県庁の方に、日本酒の全国生産の3割以上を兵庫県が占めているのだから、県立高校に醸造科を設置したらどうかとよく言うのです。そして多くの人に酒造りについて学んでいただきたい。そうすれば私たち灘の蔵元への関心も持っていただけるんではないかと思います。
それに灘の蔵元がJAみのりさんの地域に新たに蔵を建てて、そこで生産すれば半年農業、半年蔵人というのではなく、年間通して蔵人をやりながら、山田錦の生産も出来るかたちが採れると思います。
なるほど、すでに丹波ではある蔵元が生産を始めていますね。従来の発想とは違った山田錦生産農家と蔵元との連携が取れるとおもしろいですね。

神戸:なるほど、すでに丹波ではある蔵元が生産を始めていますね。従来の発想とは違った山田錦生産農家と蔵元との連携が取れるとおもしろいですね。

長江:大学の農芸化学科を卒えた技術者は蔵元にはたくさんいるんですが、杜氏さんや蔵人、ドイツ流に言うとマイスターになりますが、こうした特殊な技能者を育てることがこれからは必要だと思います。
神戸:兵庫県の場合、酒造好適米の品種改良は酒米試験地(兵庫県農林水産技術総合センター農業試験場酒米試験地 所在地:兵庫県加東郡社町)で行っていますが、新しい技術も開発され、品種の改良の期間短縮だけでなく、数年前にはかなりの量がなければ出来なかった醸造試験も、今はほんのわずかな量で出来るようになったようです。
ただ、今のところ山田錦を超える新しい品種は発表されていません。
もちろんそれに安住することなく、生産農家には色々と指導しています。 例えば、植物は、固定した品種であっても何代も栽培を重ねますと、元々持っている性質が変化するものです。
そこで山田錦本来の性質を維持するために種子更新を2年と決めて指導しています。また、安定して種籾(たねもみ)を提供するために、JAみのり管内には採取圃場も持っております。それに農家も収量を目指すのが人情というものでしょうが、敢えて肥料を抑え収量よりも品質を追求するよう努力してもらっています。


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