灘の蔵元巡り 第1回:剣菱酒造株式会社
代表取締役社長 白樫達也氏
●剣菱の哲学
資料2
神戸:この「近世風俗誌」を拝見させていただくと、剣菱のマークが描かれていますね。

白樫:そうです、酒のところに剣菱のマークがあって「古今第一トス」とあります。「昔も今も一番よい酒だ」という意味です。これが「昔は良かったけど今はあかんな」と言われたのでは御先祖様に申し訳がたたないことになる。やはり「今も良い」と言ってもらえませんといけない。それで酒の味に対しては随分と気を使っています。

江戸時代と全く同じという訳にはいかないでしょうが、「古今第一トス」という「剣菱」の味を変えたらいかん。この味で評判を得たのだから、いつまでもこの味を届けなくてはいけないということです。そのためにはどうしたら良いか。それはやっぱりお酒の原料にお金を使いませんとね。


白樫達也氏
お客様から頂いたお金は「いい酒を造ってるからお前が贅沢しなさい」と貰ったお金やない。貰ったお金は「また美味しいお酒を造って下さい」という意味のお金なので、自分達が勝手に使ったらいかん。必ずお客さんの口に返す。広告宣伝に使っても、酒の味は良くならない。
お客さんに貰ったお金はお客さんの口にまた返すために、原料と、それを造る人のお給料とか、そういう酒造りに使う。そういうことがわかってもらえればと思っています。


製造イメージ
吉野杉で作られた甑(こしき)
この中に酒米を入れ蒸し上げるが、今日の製造工程では、ステンレス製の大型蒸し器を使うのが一般的である。

神戸:こういうお話をお聞きすると、剣菱さんが伝統的な酒造りにずいぶんとこだわってらっしゃることが良く分かりますね。

白樫:今は技術の進歩もありますから、酒造りも色々な造り方があります。もちろん最新のやり方を否定する訳ではありませんが、うちとしてはこの味を出すためには他の方法がないから、昔からのやり方で造っているということです。
よそ様が「こういうやり方でこういうお酒ができますよ」と色々おやりになっている。今では省力化の進んだ醸造方法が普及していますが、濃醇な酒を造っているところで新しいやり方なさっているところはまだ一つもない。結果としては、うちは昔のままをこだわっているような形になっています。


●「秋晴れがする酒」が灘の酒
神戸組合長
神戸:その「昔のまま」が今はかなり厳しい時代になったと思うんです。剣菱さんの「昔のまま」は特に人手がかかるやり方ですよね。

白樫:例えば、私のところでは山田錦が出来てきた頃に、仕込みを始めます。
そもそも灘の酒は寒造りで、春に仕上がった酒を寝かせて、秋が来て出来上がるという、いわゆる「秋晴れがする酒」、それが灘の酒です。私のところはずっとそのスタイルです。まあ年中酒が出てくるよというのを売るのも商売の仕方ですけれど。
秋まで置いておけば美味しくなるお酒を何でわざわざ今出すんや、というのが私どもの考え方ですので。ですから、「生」とかそういうのは考えていません。


神戸組合長
内張りが杉板の麹室内では昔ながらの麹蓋(こうじぶた)による作業が行われる。
杜氏も蔵が4つあったら4人います。蔵人(くらびと)も全部あわせて季節で来てくれるのが約150人です。ただ毎年平均年齢が一歳ずつ上がっているという感じですね。
うちで一番若いのが50歳くらいかな。それが一番若くて、前からの杜氏さんの息子です。今70歳近くの杜氏さんがいますけど彼の息子さんは来てないですね。
これからは仕事によって蔵人をわけることになるかなと思います。味に影響のないところは蔵人じゃなくても、機械なり、経験のない地元の採用者でできると思う。ノウハウが要る部分をそういう技術を持った人に、と分ければ何とかなると思うんですが。その使い分けはまだできていません。若い人でも酒造りに興味のある人はいるんです。何人かうちにも若い人が来ています。そういう人たちに来てもらって、酒造りをしてもらうことを考えています。

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