●国境も飛び越えて欧州へ
神戸:ところで男山さんは随分と早い時期から、海外のコンクールに吟醸酒を出品して好成績を収めていらっしゃいますね。
山崎:はい、おかげ様で「国際酒類コンクール」には連続26回、つまり26年間続けて金賞を受賞しております。
神戸:北海道の旭川の蔵元がそこまでおやりになると言うのは、やはり「木綿屋男山」としての心意気と言う事になるのでしょうか。
山崎:確かにそれもありますが、もっと直截的な理由もあるんです。
端的に言えば旭川だけでなく札幌でも男山の酒を売りたかったんです。
ところが札幌の人達は旭川の方は見てくれない。
どこを見ているかと言うと東京なんですね。そこで全国版のコンテストや鑑評会に出品して蔵をアピールしようと考えたんです。
おかげ様でいろんな賞をいただきましたが、とうとう農大が主催する「ダイヤモンド賞」をいただく事ができましたので、その勢いを駆って海外の賞も取ろうと言う事になり、色々調べまして、ワインの伝統のあるヨーロッパの「国際酒類コンクール※」「世界酒類コンクール」「欧州酒類コンクール」に行き着いた訳です。
※毎年ベルギーでひらかれる消費者の利益と安全のために全世界の商品の品質評価を行う世界的コンテストモンドセレクションの国際酒類コンクール。
日本酒は米が原料ですので、我々は「ライスワイン」と銘打って、原料がブドウ以外の「その他の酒」として応募しました。
参加している酒の原料はブドウ以外と言っても、我々以外は皆果実から造られているわけで、穀物である米からワインなどできるわけがないと言われました。
ですから吟醸酒のフルーティな香りと豊かな味に、先方の皆さんは本当に驚いたようでした。
おかげさまで、札幌は無論のこと、東京でもご愛飲いただけるようになりました。
また海外の方も冷凍コンテナが発達して来ましたので、安心して安定した品質の高級酒をアメリカ、ヨーロッパ、近くでは台湾にも出しております。
●酒造好適米を巡る環境変化と今後の山田錦
神戸:札幌に進出する為に、ヨーロッパまで行ってしまったと言うのは愉快な話ですね。
さてそこに使われているのが「兵庫の山田錦」などの酒造好適米ですが、この世界も様変わりして来ております。
かつては兵庫の山田錦は需要に対して、まったく供給が追いつかない状況が続き、各蔵元には大変ご迷惑をかけた訳です。
ところが近年経済の低迷が続く中、高級日本酒の需要が落ちて来て、需給バランスの逆転化すら考えられる時代となりました。
山崎:確かに昔は兵庫県の農協さんに通い詰めて、何とか少量の山田錦を分けてもらえたと言うようなお話もあったわけですが、最近ではそんなことも無くなり、こうして組合長さんがわざわざ足をお運びいただくことすらある時代になりました。
以前では考えられないことです。 また原点に返って考えると、山田錦は吟醸酒造りに必須の米かと言われれば、必ずしもそうではない訳です。一般の飯用の米からも造ろうと思えば吟醸酒ができます。
神戸:以前、この「蔵元巡りの旅」に登場願った大関の熊谷常務さんも、飯用米の「日本晴」で吟醸酒を造ったお話をしていらっしゃいました。ただし山田錦で造ったら「秋上がり※2」のするより素晴らしい吟醸酒が出来たとも、おっしゃっていました。
※2 秋上がり:仕込んだ酒が夏を過ぎてからよりいっそう味が良くなる現象。
一般の日本酒の場合、暑い夏場を越すと酒質が落ちることがある。
山崎:山田錦は価格が高いですから、メーカーとしての蔵元の社長が欲しい米と言うより、技術者である杜氏が欲しがる米なんです。
こうしたらこんな酒が出来ると言う再現性、つまり仕込みのデータの蓄積が利くんですね。
毎年失敗がなく安定して良い酒が出来ます。
それで蔵元の社長としては「原料は山田錦を揃えた。機材等の生産環境も揃えた。後はわかっているよね」と技術者の人達に託すことが出来ます。
しかし蔵元としては、安定した山田錦のようには行かないけれども、素晴らしい酒が出来る米に挑戦することも必要だと思うし、蔵元の立地する土地の米を使うことも、地酒と言う点から求められる訳です。
神戸:そうですね。私どものこの山田錦倶楽部の発想も、日本酒文化と酒造好適米全体の興隆を目指している訳です。
その方法論として、私どもJAみのりの特産物であり酒米の王様として自他ともに認める山田錦を、より高度なものに引き上げることで、酒造好適米全体の質の向上にも繋がるのではないかと考えている訳です。
また山田錦を超える酒造好適米の出現と言うことも意識しております。
しかし他方で山田錦が世に出てから60余年経って、未だにこれを超える米が出現しないと言うことも事実です。
ワインの世界でも代表的な品種はほぼ固定しているわけですが、有名産地、有名シャトーは独特の気候風土、特に土壌に特質があるようですので、現在この辺りの研究・指導等に力を入れています。
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