吟醸蔵巡り 第1回 菊姫合資会社
代表 柳 達司氏
●「日本一」を造る
神戸:今日までさまざまなことをされていたようですが、本業の酒造りもいろんなことのあった時代ですね。特に煙草のお話が出たように、お酒も酒税のかたちで同じく国家財政に大きく貢献してきましたよね。

柳:そうです。明治・大正・昭和と、酒屋というのは自由が利かない商売だったんですよ。特に第2次大戦後は、級別ができて配給制度になりました。米の購入量が決まっていたので、造る量が決まっていた。当然売る地盤が決まっていた。
ものが自由に買えて、自由に造れるようになったのはこの20年位前からですね。だからそれまで地盤が限定されていた地方の蔵元にとっては、大変な時代になりました。

神戸:一方で日本酒自体の売れ行きも20年前は1000万石あったのが、去年600万石を切って、実数は550万石程度だろうと言われるくらいに落ち込んでいます。消費量そのものが半減していますね。


研究室
蔵の随所に実験や検査を行う研究室がある。
柳:そうすると当然のことですが、値段の安い商品での競争が激しくなる。うちなんかは、日本酒全体からすれば0.1%以下の売上の小さい酒屋ですから、ニッチ(注:窪み、隙間の意味)市場狙いで行くしかないですよね。
安い酒が流行る中、金が掛かっても良いから良い酒が呑みたいという人もまた少数とはいえ、いらっしゃるだろうと思うんで、そういう人たちが納得して買っていただけるような酒を努力して造っていきたい。
皆と同じことをして酒を造っても存在理由がない。皆がしないことをしようと思ったわけです。


1t仕込みタンク
柳代表が自ら考案した1t入りの小型仕込み桶
そこで日本一になろうと思った。もちろん販売量の日本一は、一生掛かっても無理です。でも製造原価の日本一高い酒なら造れる。コストが日本一掛かった酒ならできる。それを求める方がいる限り、造ってやろうと思ったわけです。他所が30トンクラス(※2)の大型仕込をするとき、うちは小さな1トンの仕込で全部吟醸造りをしようとまで思った。それで蔵の造りから何から全部変えました。今から20年程前のことです。
※2:仕込み桶(タンク)の大きさを指す。

●最高の山田錦にこだわる
吟醸酒用のもろみ室
「もろみむろ」は徹底した衛生管理でまるで半導体生産の「クリーンルーム」の様
神戸:すべて吟醸造りを考えるとなると、山田錦などの高品質の酒造好適米を大量に使うことになりますね。

柳:そうです。吟醸にふさわしい米が必要になって頼ったのが、現在のJAみのり、かつての吉川町(よかわちょう)農協ですね。山田錦をどうしても手に入れたい。安定的なところから安定的に手に入れたい。そう思い立って吉川町まで行きましたが、最初は断られました。今から20年以上前のことです。村米制度もしっかりあるわけですし、簡単には行かなかったですね。
それでいろんなツテをたどって、通い詰めて念願の吉川の山田錦を手に入れることができました。
それからJAみのり管内の山田錦とのお付き合いが深まっていったたわけです。


神戸組合長
JAみのり管内の山田錦生産農家との交流組織「姫と語る会」の寄せ書きが蔵の壁に貼り出されている
神戸:山田錦もかつてはJAみのり管内および周辺地区だけで作られていたのが、量的には少ないとはいえ今は全国20数県で作られていて、すっかり全国区になっていますが、菊姫さんは特にJAみのり管内の山田錦にこだわっていらっしゃいますよね。

柳:山田錦の産地の中でも最高級の山田錦だから、高くても使いたい。最高級のなかでもさらに最高が欲しいと思っています。
それだけに厳粛にチェックする機構があると良いですね。ワインに三ツ星や四ツ星があるように、山田錦というお米にも特上や普通というランクを、本格的なかたちで付けてもらって、特上を造った農家の方にはそれなりに価格で報いるとかになれば良いと思います。
うちは高くても、最高級の山田錦が欲しいんです。

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